碧水会のリレー随想 

齋田美怜

  2006年 建築学科卒
 e0022  理工ボート部の女子漕手 原稿受領日:2011.10.26
 リレー先指名 : 松本繁(20'06)、吉澤早(2007)

 「大学に入ったら運動部に入りたい」と思っていた。ふわふわした飲みサークルではなく、真面目に活動していて、女子でも選手になれる部活にしようと思っていた。一応、女子なので、少しは『部活帰りは先輩に車で送ってもらえるのかな?』というような甘い大学生活を想像していたりもした。

 入部を決めた理由は、「今からでもオリンピック選手になれるよ」と言われた事と、先輩達が格好良かったから。先輩達の漕いでいる姿、練習している姿が本当に格好良かった。一丸となって勝つ事しか考えてない、必死な姿は、何よりも素敵だと思う。一丸となるスポーツは他にもたくさんあるけれど、他の競技との差は、10分未満の劇的な試合だと思う。すぐに結果が出るボートにどんどん引き込まれていった。

 先輩に言われた事がある。「2000mという長距離を全力で競技するスポーツはボートだけ」だと。スポーツの中で一番キツイ競技なのだと理解した。

 是非、女子について述べようと思う。男子とは比べものにならないと思うが、想像していた「甘い大学生活(先述)」とはかけ離れた世界で、私達同期5人は努力した。「エルゴ2000」「エルゴ30分」は座ってから1時間は覚悟が決まらない。乗艇は良いが、エルゴは極力やりたくない。試合に出たい。出るなら勝ちたい。男子みたいに合宿所がない。毛布が汚い。理工まで陸トレに行くのが大変。

 他大女子漕手の仲間に入れない。試合前は日焼け止めを塗り捲る。テンションをあげようと10番艇庫でZARDの「負けないで」を熱唱して、日体女子に怒られる。荒川の乗艇は強制ではない。試合に負けて泣く。勝っても泣く。わがままでガキの私達に先輩も同期も後輩も良く付き合ってくれた。

 いつも一緒に居た女子クオだが、3年にもなると、私達5人はそれぞれ進路も考え出し、物の考え方やモチベーションが違って苦労した。でも皆、好きだったんだと思う。ボートも人も。就活が忙しくても、バイトが大変でも、宿題が終わらなくても最後まで諦めずに努力した。自分達で考えて、自分達で乗り越えていけたと思う。自己満足でしかないかもしれないが、それで良かった。朝練がつらくても練習に行くのはクルーがいるから。体調不良でも練習に行くのはクルーがいるから。「仲間」という強制力は、将来「絆」になっていると感じる。

 私は5年生をやった。本当は19年卒という事。同期が卒業した後も漕いだという事。漕げる環境にあったのも事実だが、多くの事を犠牲にして漕げる環境を作ったのも事実。いつも自己満足だったから、何かを犠牲にして取り組む事は初めてだった。私はレースに勝つしかなかった。

 自己満足ではなく、結果を残さないと意味がない、そうでないと報われない。自分へのプレッシャーが凄かった。しかし、そのプレッシャーのおかげで、乗艇以外にも陸トレ、エルゴにも取り組んだ。今までで一番体作りができた。乗艇よりそちらの方が大事だったのかもしれない。インカレでは敗復敗退。結局、自己満足レベルで終わったのだ。

 「今の現役はダメだ」と聞くが、本当にそうだろうか。人間はいつの時代もそう変わらないと思う。大人がダメにしてないか、いつも問うようにしている。私は建築の仕事をしていて「学生はダメだ」「若い人はダメだ」と同じように言われる。しかし、内藤廣さんだけは違う。私は将来そういう建築家になりたい。現役は、目指している選手、目標とする先輩、尊敬するOBがいるのだろうか。

 最後に、女子漕手を勧誘してみたらどうだろうか。理工にも女子が増えてきたようだし、漕手になりたい女子がいるかもしれない。コミュニケーション能力の高い女子がいる事は重要だと思う。女子漕手が復活したら女子の監督もいいかもしれない。甘いですかな。