碧水会のリレー随想   生出 健一 2007年 電気電子工学科卒 
 e0003  ボート部  原稿受領日:2010.11.29
 リレー先指名 : 齋田 美怜

 はじめまして、平成19年卒の生出と申します。現在、荒生監督の下コーチとして現役選手の指導させていただいております。私が現役の時は、4年のフォアでインカレ準決勝まで進んだ事が最高の成績でした。

 私がボート部と出会ったのは、大学の入学式です。理工学部の勉強には不必要であろう大きな肉体を持った男二人(松本さん、都築さん)と、線は細いのですが背筋の良い女性(斎田さん)に話しかけられました。今思えば、随分と先輩方は無理をして笑顔を作ってくださっていたのだなと思うのですが、それはそれは明るく爽やかな印象を持ちました。ボートというスポーツは知ってはいましたが、全く興味はありませんでした。なんだか、一緒にいて楽しそうだなと感じ軽い気持ちで戸田に足を踏み入れたのが始まりです。

 楽しい日々は長くはありませんでした。2年生になると合宿生活が始まり、肉体的精神的に追い込まれました。あの時は本当に苦しかった。二年生のシーズンが終わったらボート部を本気で辞めようと考えていました。世話になった先輩や同期の気持ちを全く無視して、自分が楽になりたかっただけです。
 それでも辞めなかったのは、当時監督をされていた井熊さんに励まされた事と、同期のみんなに応援された事が大きかったと思います。本当あの時挫けなくて良かったと思います。

 最終的には四年生の夏まで漕ぎきる事ができましたし、大学院二年ではヘッドコーチをさせて頂きました。昔の自分から大きく成長したと思います。ボート部には感謝の念が尽きません。

何が私を成長させたのか。と考えてみるとそれは大きく三つあるように思います。

 一点目は、全日本大学レベルで練習し競技してきたことです。これは多くの方に共感いただけるかと思います。自分を追い込み、何よりも真剣に取り組んだこと。辛い事にも耐え、前向きに練習できたこと。あれほど辛い事をやりきった事が自分の自信になり、今の仕事に活きています。一人で海外出張をし、慣れない食事をし、英語で現地のスタッフと仕事をする。ボートで養った精神力があったからこそ遂行できていると思います。これからの仕事の中でもボートの経験が活きてくる機会があると思います。

 二点目は、後輩を指導する事です。コーチの経験が主です。指導されているだけでは見えてこなかった、コーチとして選手のモチベーションから肉体までコントロールする技術の面です。コーチをやっていて一番難しいと思うのは、選手とコーチの温度差といいますか練習に対するモチベーションを常に同じに保たなければならない点です。選手はコーチが思うより真剣です、少しでも指導に手を抜けばそれは一発で選手に見抜かれます。どんなに技術的に初歩的な練習でも、どんなに簡単な指導でもコーチは真剣にやる。真剣に見せる。これが非常に重要と感じました。

 やはりコーチは経験も豊富で、漕ぎの様子を見ただけで選手のその日のモチベーションが分かります。コーチは選手の一挙手一投足を見て、選手の気持ちを理解します。そこから本人に適した指導、声掛けを行う。これは互いに真剣だからこそ、感じられる領域の話です。生半可な気持ちでは相手の事なんてわかりません。どんな時も真剣にやる。相手の事を考える。身をもって勉強しました。
 
 最後に、人です。先輩後輩、いつも一緒にいて毎日楽しく過ごしていた仲間は永遠に私の財産です。今でもあの時のように会えることが精神的に私を支えています。

 数年前に学年に部員が一人二人になった時がありました。今ようやく安定し、部員が入部してくるようになったかと思います。大学一年生と接すると、あまりにも自分たちの学年達の考え方と違っていて驚くことがあります。聞いたことのない新しいものの考え方をしてるなと感じるからです。それに対し、あまり違和感を持たないようにするというのがこれから大切になるのではないかと思います。なぜなら、それはいつの時代も普遍的な問題でどの組織でも感じ得る状況だからです。そして常に若い現役達を中心とした組織であり続け、時代の変化に応じて部も変化していく事で部が長続きするのではないかと思うからです。もちろん、芯となるボートで勝つという指針は同じままです。

理工ボート部は創部50年になるわけですが、これからも若い世代を大切にしていく組織であることを願います